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『大事に愛情をもって庭と向き合う』ということ

『大事に愛情をもって庭と向き合ってください』

雑木の庭の生みの親の造園家が私に残した最後の言葉です。とても重みのある言葉だと受け止めています。造園家は、庭そのものだけでなく「向き合い方」を託してくれたのだと思います。

人でも庭でも、興味を持って良く見てあげること、それが一番大切だと私は思います。

庭も人も、“状態”を教えてくれています。でも、それに気づけるかどうかは「どれだけ興味をもって丁寧に見ているか」にかかっているからです。

 

例えば雑木の庭なら、葉の色のわずかな変化や枝の伸び方の癖、あるいは、土の乾き具合や匂いなどの小さなサインを見逃さないことで、手を入れるタイミングや方法が自然とわかってきます。人も同じで、表情の変化や言葉のトーン、そして、沈黙の意味、そういったものに気づくには、「関心を持って見ていること」が必要なのです。

 

そしてもう一つ大事なのは、「コントロールしようとしすぎないこと」だと思います。

雑木の庭は、整えすぎると魅力が消えてしまうことがあります。人も同じで、無理に変えようとするより、その人らしさが自然に出る環境を整える方がうまくいくことが多い。

 

ですから造園家の言葉は、「手をかけて欲しい」という意味だけでなく、「よく観て、感じて、必要な分だけ関わって欲しい」ということなのだと理解しています。そのためには、関心を持って見ていること、興味を持って見るということに加えて不思議さや感心したり共感したりする感性、つまりSense of Wonderが人や庭に向き合う事に必要だと私は思います。

 

単なる「観察」ではなく、そこに驚き・感動・共感が伴うこと——まさに Sense of Wonder があるかどうかで、向き合い方の質は大きく変わります。自然へのまなざしを語った レイチェル・カーソン氏は、「知識よりも先に、驚く心が必要だ」と述べています。これは庭にも人にも、そのまま当てはまる考え方だと感じます。

 

例えば、ただ「芽が出た」と見るのと、「なぜこの場所で、このタイミングで芽吹いたのだろう」と不思議に思うのとでは、そこから先の関わり方がまったく違ってきます。

 

Sense of Wonderがあると、

・対象を“評価”する前に、まず受け止める

・変化を「異常」ではなく「意味のあるもの」として見る

・一見当たり前のことに、新しさを感じ続ける

という姿勢が自然と生まれます。

 

そしてこれは、人との関係でも同じで、「わかる」ことよりも前に、「なぜだろう」「面白いな」「そう感じるんだ」と思える余白があると、相手を固定的に見ずにいられるのです。

 

雑木の庭って、完成形がありません。常に移ろい、予測しきれず、でもどこか調和している。だからこそ、管理する対象ではなく、「対話する存在」になります。そして、Sense of Wonderは、その対話を可能にする“感性の入り口”なのだと思います。造園家が残してくれた 「大事に愛情をもって向き合ってください」 という言葉は、単なる優しさではなく、驚き続ける力を持ち続けてほしいという願いも含まれていたのかもしれません。

 

でも、この感性はとても繊細で、意識しないとすぐに鈍ってしまうものです。Sense of Wonderって、外の世界の問題のように見えて、実はかなり「内側の状態」に左右されるのです。心に余白があるとき、人は自然と不思議さや美しさに気づけます。でも、余裕がないときは、目の前に同じ景色があってもただの“情報”としてしか入ってきません。私は、自分を幸せだと感じられないとSense of Wonderが薄れてしまうように感じます。

 

「幸せを感じられる状態」とは、言い換えると、安心している、急かされていない、自分を受け入れている、といった状態でもあると思います。そういうとき、初めて、「なんだろう、これ」「きれいだな」と立ち止まることができます。

 

逆に、心が疲れていたり、自分に厳しすぎたりすると、庭を見ても「手入れしなきゃ」「うまくいってない」、また人に対しても「ちゃんとしないと」「なぜできないんだろう」と、“評価”や“管理”の目線が強くなってしまいます。そうなると、Sense of Wonderはどうしても入り込む余地がなくなります。

 

一方で、逆の見方もできると思います。必ずしも「幸せだからSense of Wonderが生まれる」だけではなくて、小さなSense of Wonderが、結果として人を幸せに戻すこともあります。例えば、風で葉が揺れるのをふと眺める、昨日と違う芽の形に気づく、そんなほんの一瞬の「おや?」が、気持ちを少し緩めてくれることがあります。つまり、幸せ ⇄ Sense of Wonder は一方向ではなく、行き来する関係にあるのだと思います。

 

だからもし「最近ちょっと感じにくいな」と思うときは無理に幸せになろうとするより、ごく小さな“気づき”をひとつ拾うこと、それが入口になることも多いのではないでしょうか。

 

庭は特に、それを助けてくれる存在です。何も語らないけれど、よく見れば必ず何かが起きているから。

『大事に愛情をもって庭と向き合う』というのは、自分自身の状態にも同じように愛情をもって目を向けることなのかもしれません。

 

kaoru.chujo@sowinsight.com (中条 薫)

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